ATOM ON SPHERE
Official Web Special Interview
ロックバンドはエレクトロニックな夢を見るか?
取材・文/早川加奈子
オルタナシーンの強者たちがネットワーク時代に放つ、
色鮮やかでロマンティックなデジタルポップ・グルーヴ
映画『ブレードランナー』に描かれていた、アンドロイド(人造人間)が当たり前に存在する近未来。
アンドロイドの女子アナやAIの自動作曲システムが登場し、あらゆるものがネットワークに繋がる生活が秒読み状態となった2019年の今、かつての近未来はもはや現実となりつつある。
「テクノロジーのせいでみんなどんどん病んでいってると思う。電車に乗ると、周りはみんなケータイを見てるし、SNSでは繋がってるけど、現実はそうじゃない。自慢するためにSNSに写真をあげて、それを見て自分の人生と比べて落ち込んだりもする。だから今の人間がいちばん孤独を感じてるらしい」(KEN LLOYD/Vo)
だからこそ、ではないけれど、見せかけのデジタルミュージックでは味わえない人力のグルーヴと高揚感を求めるべく、日本のオルタナ~ミクスチャーシーンを牽引してきたKEN LLOYD(OBLIVION DUST/FAKE?)、Shigeo(The SAMOS/mold/ex. SBK)、ケイタイモ(WUJA BIN BIN/ikanimo/ex. BEAT CRUSADERS)、桜井誠(Dragon Ash/Kj&THE RAVENS)の4人によって、ATOM ON SPHEREは2011年に結成された。以来彼らが目指すのは、ロックやダンスミュージックの垣根を超えた、デジタル世代以降の肉感的なバンド・サウンド。そのATOM ON SPHEREが前作『ATOM ON SPHERE』から約7年4ヶ月を経て作り上げたのが、4月16日リリースの待望の2ndアルバム『The Secret Life Of Mine』である。
「ところどころに、俺らが10代や20代の頃に聞いてきたものの匂いを感じる」(ケイタイモ/Ba)
ケイタイモの言葉通り、前作から約7年4ヶ月の時を経て全世界に向けて放たれる『The Secret Life Of Mine』。そこから溢れ出すのは、ニューウェーヴ、ニューロマンティクス、エレクトロポップ、マッドチェスター、ビッグビート、デジタルロック、テクノetcを経由した、メンバー自身のDNAに刷り込まれた’80年代~’90年代のロックやダンスミュージックの刺激だ。
「ミックスやマスタリングに関しては今の音を意識したけどね」(桜井誠/Dr)
「1stを作った後、フロアの音楽やトレンドをこのバンドに反映させるべきかを考えた時に、あんまり持ち込まない方がいいのかなと思ったというか。そもそもダンスミュージックというよりも、打ち込みやシーケンスとロックバンドをミックスすることはずっと俺の中の不変のテーマ。今も昔も、どっちかが欠けたものはほぼやってないかもしれない。だからトラックとかフロアものを作る時も、生のバンドやニューウェーヴの要素をどうしても入れたくなっちゃう。とくにこのバンドの場合は、桜井さんの叩くブレイクビーツ感を生かしたいですからね」(Shigeo/G&Programming)
Dragon Ashというシーケンス・ミュージックで精緻に鍛え上げられてきた桜井のドラムはもちろん、前作以上に各メンバーの個性や音楽要素が色濃く反映されているのも、『The Secret Life Of Mine』の特色である。インディーロックなギターリフが力強く鳴り響く「Kick The Habit」、ディスコソウルなグルーヴと官能的なボーカルが絡み合う「My Cure」、妖しさと激しさが交錯する「Doves」、エッジィさとポップさが際立つシンプルなタイトル曲「Secret Life Of Mine」など。別ユニットやDJとしての活動を通してつねに最先端のフロアの音をキャッチしながら楽曲制作の指揮を取るShigeoいわく、今作では、「ギターの音ひとつとっても、今までのAtomにないキュートな部分や華奢な部分も意図的に出した」という。その結果、前作以上にポップでキャッチーな音やストレートなアプローチも大胆に鳴り響く一枚が完成した。
「どの曲もそうだけど、Shigeoが作ってくる音に合わせてメロディを作って、その世界観に合う歌詞を僕が書く。
1stはもう少しストレートで激しい楽曲が多かったから、歌詞ももっと攻撃的だった。でも今回は、例えばかわいくてポップな印象のあるサウンドに触発されて歌詞を書いた「Secret Life Of Mine」は、<自分さえ知らない秘密の人生=輪廻転生>について歌った曲。いろんな人生を送ってきたけど、唯一変わらないのはいつも真ん中にあなたがいることっていう、ラブソングなんです」(KEN LLOYD)
音楽シーンの動向も小難しい御託も飛び越えた、エレクトロポップ~ニューウェーヴの遊び心と哀愁が交錯する刺激的な音とビートと、曲毎に表情を変えるしなやかな歌声。今作には、前作発表以降のライブで鍛え上げられてきた数曲もしっかりと収録されている。ATOM ON SPHEREが放つ色鮮やかなポップグルーヴは、ネットワーク時代の孤独を、時に激しく、時にロマンティックに刺激してくれるだろう。あなたの孤独な魂を踊らせる準備はすでに万端だ。